平成最後の油彩画『キリスト意識の目覚め』Tokyo Independent 2019
2019年5月2日
元号が昭和から平成に移行した時期だった一九八九年二月、東京の神田と銀座で二週にわたって開催した個展では、画廊に門松、棺桶、揺り籠の既製品を配置するインスタレーション作品がメインの個展だった。棺桶は葬儀屋さんから借りて門松は実家の伊豆の温泉旅館から飾り終えたものをいただいた。そしてこれらを使ったインスタレーション作品は、誕生と死、祝と死といった相反するものを象徴する既製品を同一空間に置くことで互いを打ち消してしまうという意図から制作されたものだった。しかしながら、この時期私の個展の二週目の銀座村松画廊での個展の期間中は昭和天皇の葬儀にあたる大喪の礼とも重なってしまい、画廊に置いた棺桶と天皇崩御が私の作品意図に関係なく強く関連付けられてしまうという予期しない出来事が起こってしまい、私自身の作品意図とはまったく関係のない作品のように見られてしまったのだった。
あれからちょうど三十年が過ぎ、今の時期に東京藝術大学の陳列館で無審査、自由出品で開催されている展覧会Tokyo Independent 2019に出品することになり、縦二メートルほどのわりと大作の油彩画を展示する機会が偶然訪れ、自身にとっての平成最後の作品展示にもなった。
ちょうど今の時期元号の変わり目ということで三十年前の出来事を思い返すことも多く、インスタレーションはたんに物理的な作品部分だけでなく画廊空間など周囲の空間をも取り込んで表現する手法でもあり、あのときの個展では画廊に展示した棺桶が私の作品意図とは関係ない現実の社会で起こっている出来事にも大きく影響されてしまったが、今回は閉じた平面とも言われるキャンバスに描いた油彩画だったのであの時のようなことは起こり得ないだろうと思っていた。しかしながらたまたま今回の展覧会開催時期に、パリのノートルダム大聖堂炎上やスリランカの教会などで大規模な爆弾テロが起こり、描いた油彩画が地球の見える宇宙空間に十字架のキリスト像を描いた作品であったため、見る人のとらえ方によっては地球最後の日といった言葉が連想されるような作品にも見えてしまう状況が起こってしまったのだった。そして、このことで額に入った閉じた平面である絵画作品であっても作品の見え方が展示場とは無縁の現実の社会で起こっている出来事に影響される場合があるということに気づかされることにもなった。
この油彩画に描かれた地球はアポロ宇宙船から撮影された写真を元に描き、キリスト像のほうもサルバドール・ダリの描いた『十字架の聖ヨハネのキリスト』というタイトルの油彩画に描かれたキリスト像をそのまま引用して描き部分的には模写ともいえるような作品なのだが、キリスト像のほうはレタッチソフトの自由変形機能を使って自分の描く画面により自然に見えるような形態に変形して描いている。全体としてはダリの描いたオリジナルのキリスト像より横幅を狭め、下半身を中心に上下を引き伸ばした画像に変形して描いているけれども特に上下を伸ばしたことで羽を拡げた鳥が地球に舞い降りるようなイメージも連想できるようなキリスト像として描いている。
公開日 2019年5月2日 木曜日
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