現在制作中の油彩画、プノンペン国立博物館の白蓮華
2024年11月01日
クメール文明が栄えたアンコールの遺跡群に強い魅力を感じてカンボジアの地を最初に訪れたのは三十年前の一九九四年十二月。当時はまだアンコールワットを訪れる一般的なツアーはなく、特殊な秘境ツアーに参加して訪れるのが一般的だったような気がするが、当時の私は一人旅の個人旅行でカンボジアを訪れた。
タイのバンコク経由でまずカンボジアの首都プノンペンを訪れ、その後国内線でアンコールワット遺跡のあるシェムリアップの街へ移動した。カンボジア到着後、飛行機の乗り継ぎで一泊した首都プノンペンに関しては、国立博物館のクメールの彫像がとても素晴らしかったという印象が強烈に残っている。その当時は博物館内の撮影は不可で、博物館で描いたドローイングの数枚は現在まで残っている。
1994年当時はまだフィルムカメラが使われていた時代で、この時期は36枚撮りのスライドフィルム10本ほどを用意して旅行に出かけた。そしてカンボジア国内で最初に撮影した一枚目のカットは白い塔の写真だった。後年、当時撮影したカットをスキャンしながら、これはたぶんアンコール遺跡のあるシェムリアップで撮影されたものではなく、首都プノンペンのどこかで撮影したものなのだろうとは推測できたが、撮影場所の記憶はなくなっていた。
そして撮影からちょうど三十年が過ぎた二〇二四年の今年、五月に再びカンボジアの首都プノンペンを訪れた際、王宮のエリアにあるシルバー・パゴダと呼ばれる仏教寺院の境内に三十年前に撮影したカットと同様の白い塔を見つけ、ここが私が生まれて初めてカンボジアを訪れた一九九四年十二月に最初のカットが撮影された場所であったということが最近になり確認できた。
シルバー・パゴダという寺院名は、寺院の床全体に銀板が敷き詰められていることがその名の由来らしい。そして寺院中央には、エメラルド仏と呼ばれる本尊が安置されている。そしてこの敷き詰められた銀が影響しているのかは定かでないが、とても神聖な波動が感じられる空間で、本尊の前で座るとすぐに深い瞑想状態に入ってしまった。
プノンペン滞在中の数日間は、シルバー・パゴダを一度訪れた以外は、毎日開館時から国立博物館に通って、クメール彫刻の傑作群の撮影とドローイングのスケッチを描いていた。ここで撮影した彫像はこれから絵画作品として描いていくつもりでいるが、プノンペン国立博物館の中庭には白蓮華の咲いた小さな池があった。
この白蓮華は、撮影時点では特に絵画作品として描いてみることを想定していなかったが、日本帰国後、白蓮華の花をすぐにでも小品の油彩画で描いてみたいと思うようになり、帰国から二か月ほどが過ぎた今年八月に描き始めることになった。そしてこの八月は私がちょうど六十歳になる節目の時間帯でもあったので、心機一転というか初心に帰るという意味で『画家として一から出直してみたい』という強い気持ちも込め、この油彩画を描き始めたのだった。
そして早ければ八月中の数日で仕上げようと考えていたこの小品の油彩画は、私自身の身辺の事情で予期せず中断されることになってしまい、再び描き始めることが出来たのは二か月後の十月半ばのことだった。そして十一月に入った今日時点でも落ち着いて画業に専念しきれるような環境にないこともあって、この作品はいまだ未完のままになっている。
しかしながら強い意志を持って心機一転で描き始めたこの作品、どんなに遅くとも2024年の今年中には描画を完了させておきたいと今は考えている。